2023年度第2回アカデミック・リンク/ALPSセミナーは、「ポストコロナにおける学生支援-有機的な連携・協働を実現するには-」という題目で、甲南大学文学部教授/日本学生相談学会前理事長の高石恭子氏を講師とし、開催されました。
はじめに、高等教育機関における学生相談の概要として、全国の学生相談機関の近年の状況や、甲南大学学生相談室での多様な活動が紹介されました。続いて、ポストコロナを迎えた学生を「主体的に援助を求めることが難しい学生」と定義し、その心理的特徴が3つの観点から説明されました。
1点目は「あいまいな喪失」の自覚の困難、すなわち、コロナ禍によって何か大切な対象を失った感覚はあるものの、何が、いつ決定的に失われたのかがわからないことから、喪失によって生じたトラウマが自覚されにくく、且つ影響も長く残りやすいと述べられ、学生の心に大きなストレスを与えていることが説明されました。
2点目として、2000年代以降のデジタルネイティブ世代では、インターネットやソーシャルメディアを駆使する生活により、人と共に居る(なま)の体験の減少や、自己の複数化が見られること、コロナ禍での遠隔授業とリアルなキャンパスライフの喪失により、体験様式の変化が加速し、学生の共感性や主体性の低下が進んでいることが指摘されました。
3点目は、発達特性を持つ学生が抱える困難さという点で、例えば自閉スペクトラム症の場合、自己の客観的理解が難しい/主体性を持ちにくいことが特性の一つであり、困難を自覚し、自分から支援を求めることが難しい場合が多いと説明されました。こうした生得的な能力のアンバランスを抱える学生の成長を支援するには、彼らがコロナ禍で経験した、新しい学び方への適応・不適応などもふまえつつ、全学的に協働する体制が必須であると述べられました。
このような学生の状況を理解したうえで、学生支援と学生相談の有機的な連携・協働を進めることが重要となりますが、具体的な心構えとして、「所属する高等教育機関において、学生支援体制の全体像と自分の位置を知る」といったことが示されました。
ポストコロナは学修とキャンパスライフが対面と遠隔のカスタマイズの時代であり、学生が最適解を自ら選びとれるよう、「主体性」を育成することがますます必要になり、教職員は個々の学生指導に応じた判断が求められてきます。新たな学生相談・学生指導においては、学生は必ずしも内省的な語りができるとは限らず、主体性が未発達であるという前提に立つこと、またその対応は、個々の教員やカウンセラーのみでは限界があるため、全学的な体制により、「学生を抱え・育て上げる」支援をおこなうことが必要であると述べられ、セミナーは締めくくられました。
セミナーのアンケート結果はこちらからご覧になれます。アンケート