2019年度第1回アカデミック・リンク/ALPSセミナーは、「深い学びを支えるアカデミック・ライティングと思考力―自律した学習者の育成に向けて―」というテーマの下、豊富なライティング教育のご経験や心理学の知見に基づく著書を多数刊行されている、桜美林大学の井下千以子教授をお招きし、開催致しました。
本セミナーでは、現在の初年次教育の課題、大学でのアカデミック・ライティング教育、思考を鍛えるアカデミック・ライティング指導といった内容を中心に講演が行われました。はじめに、現在の初年次教育では、従来の「初年次に、短期集中」「知識・技術学習偏重」といった単発的総花的な教育からの転換が求められ、発達観や学習観の転換が課題であると論じられました。発達観の転換とは初年次教育の枠内での「短いスパンでの発達」から一生涯を見据えた学士課程4年間のカリキュラムでの「長いスパンでの発達」へと転換することであり、学習観の転換とは従来の「スキル学習」「知識の積み上げ」から「深い学び」「知識の再構造化」といった学習観へと転換することです。
つづいて、大学でのライティング教育の3要素、「大学における書く力考える力」の定義等に関する説明が行われました。大学でのライティング教育の3要素とは、「学習技術(レポートの書き方など)」「メタ認知(考えて書くサイクル、モニタリングとコントロール)」「ディシプリン(専門分野、思考様式、思考の訓練)」から構成されるものです。これらの要素のうち、「学習技術」や「メタ認知」といった要素だけでも文章表現技術の訓練は可能ですが、「ディシプリン」が欠けると大学におけるアカデミック・ライティングの指導にはならないとのことです。「大学における書く力考える力」について、井下先生は「ディシプリンでの学習経験を自分にとって意味のある知識として再構造化する力」と定義し、学問の思考様式(型)を学び、型を破り、自分で考え自分の言葉で組み立て直すことであると論じております。 その後、思考を鍛えるアカデミック・ライティング指導のポイントについて、授業例も踏まえながら、説明が行われました。指導を行う上では、「身近な話題を課題とすること」「自分とは異なる立場の意見を批判的に検討させること」「きちんと調べる力をつけさせること」がポイントとなります。
最後に、学士課程4年間の思考を鍛えるライティング教育は、自分の頭で論理的かつ批判的に考え、予測不可能なことに柔軟に対応し、自律した創造的な人材を育成することができると論じられ、本講演は締めくくられました。
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