修士論文の執筆、提出、審査に向けて
このページでわかること
- 修士論文の計画~審査までの大まかな流れ
- 修士論文(研究)を進めるコツ
はじめに
修士課程では多くの場合2年間で修士論文を執筆し提出することになります。本項目では、修士論文の執筆計画、執筆から審査までの流れを大まかに示します。その中で、修士論文執筆までのスケジュールの立て方や、執筆や提出、審査にあたってあらかじめ確認・準備したり実践したりしておくとよいことについて、具体的な例も示しつつ説明します。
研究の進め方や論文の書き方についてはEYeLやEYRJの他の記事にてまとめられていますので、最後に関連記事のリンクを示します。また、記事の最後に論文を書くにあたって参考になる書籍を紹介しています。これらの書籍を読むことで、論文とはどのような文書なのか、問いの立て方、構成の仕方、注の付け方など、論文執筆の方法を具体的に知ることができるでしょう。
※なお、修士論文の「位置づけ」や「修士課程での研究の位置づけ」は分野によって異なります(ex.医学、工学など)。本記事は人文社会系の修士課程における「修士論文」を想定して書かれています。
1. 修士論文とは?
修士論文は修士号を取得するための論文です。
したがって、修士論文を実際に書き始めるまでには、多くの先行研究を読み、
- 「これまでどのような研究が行われ、何が明らかになっていないのか」を整理する
- そのうえで自らの問題設定をする
- その問題設定に対して根拠のある答えを示すために、データや資料を集め、それを分析する
というステップを踏まなければなりません。
そのため、修士論文を実際に書き始めるまでには、かなりの時間と労力を割くことになります。修士論文の執筆は、修士課程での研究の積み重ねを論文として文章化することともいえるでしょう。
千葉大学大学院学則では、修士課程及び博士前期課程修了の要件として、
- 「30単位以上の単位を取得すること」
- 「修士論文又は特定の課題についての研究の成果の審査及び最終試験に合格すること」
と定めています。
つまり修士号を取得するためには、修士論文を仕上げ、さらに審査に合格する必要もあるのです。
論文とは?
修士論文は「論文」としての形式に沿った文章であることが求められます。
「論文とはどのような文章か」ということについては、多くの書籍が出版されています。戸田山は、論文を「(1)与えられた問い、あるいは自分で立てた問いに対して(2)一つの明確な答えを主張し、(3)その主張を論理的に裏付けるための事実的・理論的な根拠を提示して主張を論証する」ことと定義しています。
この「問い」「答え」「論証」について、より具体的に言えば、「問い」とはこれまで行われてきた研究(先行研究)を整理したうえで、先行研究に対して抱いた疑問点から立てられるものであること、その「問い」に対する「答え」は、データや資料などの何らかの根拠に基づいて論理的に導かれたものであることといえるでしょう。さらに論文が学術的な価値を有するためには、その「答え」が先行研究に対して新たな知見をもたらすものであることが求められます。
2. 修士論文執筆までに行うこと
修士課程入学時から修士論文執筆までの大まかな流れを把握しておくと、研究を進めやすくなります。
本節では、まず、修士論文執筆までのスケジュールの立て方について説明します。次に、修士論文の執筆に向けて、日々の研究を通じてやっておくと良いことについて、事例をふまえながら紹介します。
修士論文執筆までのスケジュールの立て方
まず、提出までのスケジュールを確認しましょう。
入学時に配布される「履修要項」や学府のHP で、修士論文審査の流れ、修士論文の提出期限と体裁、その他提出が必要な書類についてチェックしましょう。また、提出期限等に関する通知が学務系の部署からメールで届くため、日頃からそのお知らせをよく見るようにしましょう。
次に、スケジュールを把握したら「いつから書き始めるのか」を考えてみましょう。
修士論文の分量は研究分野により異なりますし、執筆のスピードは人によって差があります。そのため、執筆開始時期については、指導教員や先輩からアドバイスを受けたり、課題レポート等を書くときに自身の執筆のスピードを把握しておいたりすることをおすすめします。
執筆開始時期が決まると、「○月までに主要な先行研究を読む」などといった、具体的な研究のスケジュールを立てやすくなります。履修計画と合わせて、入学後に在学中(ほとんどの場合は2年間)のスケジュールを立ててみましょう。
日々の研究を通じてやっておくと良いこと
ここでは、修士論文執筆までにやっておくとよいことについて、実際に千葉大学の修士課程に在籍していた大学院生の事例を紹介します。
人文社会系院生(2018年度修士論文提出)の例
①所属するゼミナール(以下ゼミ)の研究報告の機会を活用する
ゼミでは自身の研究内容を報告する機会があります。
報告では、自身の問題関心や先行研究の状況、資料・データの分析結果など、日々行っている研究を、わかりやすく報告資料にまとめる(=アウトプットする)ことが求められます。そのため、ゼミでの研究報告の準備をきちんと行うことにより、修士論文の「核」を少しずつ作っていくことができます。
報告準備をする中で、自身の問題関心を掘り下げたり、改めて先行研究の問題点を把握しなおしたりすることもできます。また、報告に対する質問・コメントに応答する中で、自身の研究に不足している部分に気づいたり、新たな視点を得たりすることもできます。さらに、研究内容だけでなく論文構成についてアドバイスをもらえることもありました。研究報告は自身の研究を深め、よい修士論文にするチャンスですので、積極的に取り組むことをお勧めします。
②論文執筆に用いるツールに慣れておく
論文を執筆する時に使用するツールにも慣れておきましょう。例えばMicrosoft Wordでは目次機能などの論文作成に役立つ様々な機能があり、使いこなせるようになると効率的に、形式の整った論文に仕上げることができます。
※分野により用いるツールは異なります(例:TeX, LaTeX)。研究で得られたデータをこれらのツールでまとめておいたり、ツールに慣れておいたりすると良いでしょう。
③読書記録をつける、文献リストを作る
先行研究を読むときにノートに記録をつけておくと便利です。
ノートには、修士論文執筆に役立ちそうな先行研究の記述を写し取ったり、文献を読んで抱いた疑問や意見、注に書かれている史料や論文・研究書などをメモしたりします。
このときメモした内容が「どの文献の何ページ、何行目に書いてある」とわかるように残しておくことが大事です。このように記録をつけておくと、修士論文執筆時にその文献や記述を引用する際、「あれ?どこに書いてあったんだっけ?」ということがなくなります。
また、研究のアイデアをまとめるうえでも、研究する中で得た気づきや疑問をまとめておくことは大切です。
読書記録や文献管理について(歴史学系院生の経験談)
私の場合は外国語文献を読むことが多いため、修士論文執筆中のただでさえ時間がないときに、一から文献を読み直すのは大きな負担になります。その点でも、読書記録をつけておいてよかったと思いました。
博士前期課程では記述の自由度が高いノートを利用していたのですが、現在は利便性の観点からWordで記録をつけています。情報の記録・整理には様々な方法がありますので、自分にあったやり方を探してみてください。また、文献リストについても、最後にまとめて作ろうとすると焦ってしまうので、早めに用意しておくことをおすすめします。現在は様々な文献管理ツールがありますので、それらを利用してみるのもよいと思います。
3. 修士論文を書く
書き始める前に「書式の指定」を確認する
執筆を開始する前に、書式の指定(文字のサイズ(ポイント)や行間、注や図版の付け方等)を確認しましょう。書式指定がない場合でも、 注の付け方等は分野ごとに所定のルールがあることもあります。指導教員に相談するなどして、適切な方法をあらかじめ知っておきましょう。
また、提出時の体裁や形式(紙OR電子)・必要書類を再確認し、提出のために必要な物品(ファイル、CD-ROM等)があれば早めにそろえておきましょう。
引用注はその場でつける
執筆後に注をつけようとすると、付け忘れが発生するおそれがあります。注の付け忘れが剽窃とみなされるおそれもあります。引用したときにすぐに注をつけるようにしましょう。
分かりやすく書く
論文の文章は、他人が読んで理解できる文章であることが大切です。論文だからといって難しい言葉や言い回しを用いる必要はなく、伝わりやすく分かりやすい文章であることが求められます。また、自分と同じ分野の教員が審査するとは限らないので、専門用語に適切な説明をつけることも必要です。
執筆途中で人に見てもらう
原稿の一部(例えば一つの章)が書きあがったら、指導教員や周りの人に見てもらい、コメントをもらうとよいでしょう。内容や表現をブラッシュアップすることができます。執筆でうまくいかないときは、一人で悩まず相談しましょう。
推敲や誤字脱字チェックの時間を設ける
提出期限ぎりぎりまで本文を書くのではなく、文章の推敲や誤字脱字チェックをする時間を設けましょう。他人に文章を読んでもらううえで大切なことです。
4. 修士論文を提出する
以下の点について、最終チェックをしましょう
- 誤字脱字はないか
- 提出先はどこか(窓口提出なのか電子送付なのか)
- 提出形式(紙OR電子)
- 体裁(製本の仕方等に指定がないか)
- 部数は整っているか
- 論文以外に必要な書類はそろっているか
※提出後は指導してくれた先生に連絡をしておきましょう。
5. 審査を受ける
修士論文を提出後、口頭試問やプレゼンテーションなど、所定の方法による審査が行われます。審査方法により準備する内容は異なりますが、まずは提出した論文の内容を見返し、修士論文の中で達成できたこと(先行研究に対する自分の研究の意義やオリジナリティ)、課題として残ったことを整理しておきましょう。
参考文献
- 佐藤望編著, 湯川武, 横山千晶, 近藤明彦著『アカデミック・スキルズ 大学生のための知的技法入門』第3版, 慶應義塾大学出版会, 2020.
- 戸田山和久『論文の教室 レポートから卒論まで』NHKブックス, 2002.
- 新堀聰『評価される博士・修士・卒業論文の書き方・考え方』同文舘出版, 2007.
- 吉田健正『大学生と大学院生のためのレポート・論文の書き方』ナカニシヤ出版, 1997.
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この記事は千葉大学の大学院生(分野別学習相談担当:ALSA-LS)が執筆し、アカデミック・リンク・センター等千葉大学の教職員が監修しました。