文献の内容を理解する
このページでわかること
- 複雑な内容の文献を読むためのコツ
- 文献の内容を把握するために意識すべきポイント
はじめに
大学で読む文献は、日常的によく読まれている文章(小説やエッセイなど)と異なり、特定のテーマやトピックについて、専門家向けに学術的な文章で書かれていたり、専門用語が多かったりと、「普段どおりに読むだけ」では理解が難しい場合が多くあります。
また、「ただ漫然と読むだけ」では、後から振り返って、結局その文献で何が言われていたのかよく分からない、ということになりがちです。ここでは、主に論文を読む場合を例に、文献を読む際に、何に注目しながら内容を把握していくとよいのかを説明します。
全体像をつかむ
文献を読む際に、そこに何が書かれているか見当もつかない状態で読み始めてしまうと、内容の理解は難しくなります。まずは、「要旨」や「序論(はじめに)」または「結論(おわりに)」にあたる部分に目を通しましょう。多くの論文では、そのいずれかで、論文全体の概要が説明されています。
また、翻訳書の最後には、訳者のあとがきとして、訳者が、著者の学問的立場の全体像や、その本に書かれている事柄の概要を解説していることがあり、これを参考にすることもできます。
概要を把握したうえで読み始めれば、どのようなことが書かれているか予想をしながら読み進めることができます。
論文の基本的な構成を理解する
主に自然科学系の論文では、「論文の構造」は、テーマやトピックにかかわらず、ある程度統一されています。論文がそもそもどのような構造で書かれているかをあらかじめ理解しておくと、内容を理解するためのポイントをおさえて読むことができます。
こうした、主に自然科学系の論文がもつ典型的な構造を「IMRaD構造」と呼びます。これは、論文の基本的な要素である、序論(Introduction)、方法(Methods)、結果(Results)、そして(and)、考察(Discussion)の頭文字をとった言葉です。論文における各要素の出現順序も、ほぼ上記の通り、I(序論)>M(方法)>R(結果)>D(考察)の順になります。
このそれぞれの構成要素(部分)において記述される内容を簡単に説明すると、以下のようになります。
序論:論文全体の目的や意義を述べる。そのために、研究の背景として、先行研究の概要や、その論文で扱う問いについて説明する。論文全体の構成をここで説明する場合もある。
方法:どのような実験方法、分析方法を用いて研究を行うかを説明する。
結果:研究を通して得られた結果を述べる。
考察:結果に関する解釈や、結果に基づいた主張を展開する。序論で述べた問いへの回答が示される。
こうした要素それぞれに関して、何が書かれているかをおさえながら読むことで、論文全体の論理展開を把握しやすくなります。
ただし、こうした構造は、研究分野によって異なる場合があります。人文系の論文では、この構造がそれほど明確ではない場合もあれば、そもそもこうした構成をとらない場合もあります。とはいえ、何らかの問題にたいして、根拠を挙げながら、論理的に結論(自分自身の主張)を導くという点は共通しています。 ※こうした構成要素については、レポート・論文を書くでも説明しています。
主に人文系の論文を読む際は、
- どのような問題について論じているのか
- その問題にたいして、最終的にどのような主張をしようとしているのか
- その主張を支えるためにどのような理由や根拠を挙げているか
- 著者の主張や、その根拠のうち、どれに関して、どのような反論が想定されているか
- 想定された反論にたいして、どのように応答しているのか
を中心に整理しながら読むとよいでしょう。
実際の文献では、最終的な主張を導き出すための根拠として、明確な事実やデータだけでなく、さらに論証が必要な別の見解を持ちだす場合も多くあります。したがって、論文に書かれていることなかには、最終的な自分の主張を直接に支持する議論だけでなく、「別の見解の正しさを論証するための根拠」を挙げたり、「自分とは異なる立場からの反論」を想定して検討したりしている部分もあります。論文を読むときは、どこの部分(文章)が、どこの文章(部分)の根拠や反論となっているのかを慎重に検討しながら読み進めなければなりません。そうした論文は、ときに複雑なものになりますが、たとえば、下のような図に「議論の構造」を書き込むなどして、読み進めながら内容を整理しておくことも有用です。
パラグラフ・リーディングを意識する
では、論文の各部分については、どのように読むとよいのでしょうか。専門的な内容の文献の場合、読んですぐには、全体の構造や推論の妥当性を判断できなくても当然です。まずは、段落ごとの内容・役割を把握し、次に、節ごとの内容・役割を把握する、といったように、順を追って理解していくとよいでしょう。
それぞれの段落が何を述べているものなのか、要点を把握するのが苦手だという人は、パラグラフ・リーディングを意識すると、理解の助けになるかもしれません。
レポートや論文の書き方として、パラグラフ・ライティングという言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。パラグラフ・ライティングとは、各パラグラフの冒頭の一文に、そのパラグラフの主題となる一文(トピック・センテンス)を書き、つづいて、そのトピック・センテンスを支持するための、具体例や詳細の説明となる数文を書き、最後に、そのパラグラフをまとめる一文を書く、というものです。
各パラグラフがこのように書かれていることをふまえれば、より重要な部分に集中して読むことができるため、要点をとらえた読み方をしやすくなります。
ただし、日本語の文章における「段落」は、厳密にはパラグラフとは異なるものであり、トピック・センテンスが一文目にない場合もあれば、そもそも明確な一文が書かれていない場合もあります。とはいえ、すべての文が、同じだけの重要性をもって書かれているわけではない、ということは共通しています。効率的に文献を読めるようになるための練習として、各段落の最も重要な部分を抜き出し、一文程度にまとめてみるということを繰り返しながら読み進めていくとよいでしょう。
読む習慣をつけるには
文献を読むのは、研究上とても大切なことであり、継続的に行うべきことではありますが、地味で忍耐の必要な作業でもあります。特に大学院生になり、自分自身で文献を読むようになると、ついそれに割く時間を削ってしまいがちになるかもしれません。
文献を読むことを習慣にするには、
- 1日のなかで、たとえば20時から21時など、時間を決めて、必ず文献を読む
- 1日1本の論文、1日1節、など、読む分量を決めて読む
など、1日のスケジュールのなかに文献を読む時間を組み込むとよいでしょう。
なかなかひとりではうまくいかない場合は、「読書会」を組織してみるのもいいかもしれません。読書会にはさまざまな形態がありますが、同じ研究室のメンバーや、ときには他大学の人なども交えて、同じ文献を検討しあうものが一般的です。節などの分担を決めて一つの文献を一緒に読む場合もあれば、各人が1本ずつ論文を読んできたうえでそれを紹介し、全員でそれを検討しあう場合もあります。
こうした読書会には、一人では読み進めるのが難しい文献も、協力し合って読み続けることができること、自分では気づかなかった観点を知る機会になること、といった利点があります。
同じ文献を皆で読むのが難しい場合は、文献を読む時間だけを一緒に決め、その時間に同時に文献を読むことにするといった方法もあります。この方法では、実際にメンバーと会う必要もなく、オンライン上で行うことも可能です。こうしたタイプの読書会を行う場合は、毎回、初めに各人の今日の目標を共有し、終わりには到達度を報告しあうなどをすることが勧められています。
文献案内
以下の文献では、論文等の文献の構造について説明がされています。
- 河野哲也(2018)『レポート・論文の書き方入門 第4版』慶応義塾大学出版会、第3章。 学外からのログイン方法を見る
以下の文献では、パラグラフ・ライティングについて説明がされています。
- 戸田山和久(2012)『新版 論文の教室―レポートから卒論まで』NHK出版、第7章。
- 福澤一𠮷(2012)『文章を論理で読み解くためのクリティカル・リーディング』NHK出版、第5講。
- 木下是雄(1990)『レポートの組み立て方』筑摩書房、第4章。