このページでわかること
- 研究活動の過程で生まれるデータや研究成果としての論文などに係る権利
- 自分の著作物を適切に扱ってもらうためにできること
- 他人の著作物や研究データを利用する際に注意すべきこと
目次
2.2 権利を主張するためには(権利が守られるようにするためには)
1 研究活動の過程で生まれるデータ等の著作権
皆さんの研究活動の過程では、実験をして測定したり、統計的な調査をしたりした結果、様々なデータが得られます。また、そのデータを分析した結果、一定の理論や法則が発見されることもあります。さらに、その研究の成果を論文等にまとめて学会等で発表したり、特許発明として出願したりすることもあります。
これらはいずれも学術研究上の価値を有するものですが、法的には取り扱いが異なります。
1.1 著作物の定義
著作権法では「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を「著作物」と定義しています(著作権法第2条第1項第1号)。この規定では「学術」という語が用いられていますが、学術に関するもののすべてが著作物に当たるわけではなく、「思想又は感情を創作的に表現したもの」という要件を満たす必要があります。
著作物であると認められる場合、それを創作した時点で、著作者は後に述べるような権利を自動的に取得します。特許権のように、権利取得のために国の機関に出願する必要はありません。
1.2 データ、法則、理論、論文等の著作物性
実験により測定されたデータ
同じ実験を行えば理論的には同じ結果になるようなものは、「思想又は感情」の表現とはいえないため、「著作物」には当たりません。
初めての実験であるとか、専門性が高く難しい実験であるとかいう事情は、著作権法上の定義には影響しません。
統計的な調査により収集・集計されたデータ
上記と同様です。
その他のデータ
研究上のデータの中には、例えばインタビュー調査の回答・アンケート調査の自由記述などの録音データ・テキストデータや、研究の過程で撮影した標本写真や動画のデータなどがあります。これらの場合、それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」であるかどうかを個別に判断することとなり、著作物であるとされる場合もあります。
ありふれた表現にすぎないと認められれば、著作物とはいえません。
なお、著作物とは認められないデータを含め、様々なデータをコンピュータで処理できるように体系的に構成したデータの集積物は「データベースの著作物」とされます。
データを可視化したグラフ等
実験などによって得られたデータを創作的な表現によりグラフ化した場合には、そのグラフとしての表現が「(学術的な性質を有する)図形の著作物」として保護される場合もあります。
ただし、円グラフや折れ線グラフなどありふれた表現にすぎない場合には、著作物とは認められません。
データの分析等によって解明された法則
一般的に「法則」とは、特定の条件下で必ず成立する普遍的な原理や規則のことを指し、「思想又は感情」の表現とはいえないため、「著作物」には当たりません。初めて見つけた法則であるかどうかは、著作権法上の定義には影響しません。法則に著作物としての権利を認めないのは、同じ手法で実験を行えば誰が行っても同じ結果が出るからこそ、法則性などの発見の意義があるからです。
ただし、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものは「発明」とされます(特許法第2条第1項第1号)。その発明が新規性・進歩性を有するなどの要件を満たす場合、特許権が認められる場合があります(特許法第29条)。
研究活動の結果、見出された学説や理論
「学説」や「理論」を文章にしたり口頭で説明したりしたものが、後述の論文や報告書のような位置づけで著作物とされる場合があります。しかし、学説・理論自体は表現の背後にある考え方であり、「表現されたもの」とは言えないため、「著作物」には当たりません。
初めて提唱した理論であるかどうかは、著作権法上の定義には影響しません。
研究成果をまとめた論文・報告書・ポスター
研究成果を文章や図表によりまとめた論文や報告書は、「思想又は表現を創作的に表現したもの」であり、「学術」の分野に属するものであるため、ほとんどの場合、著作物であるといえます。ただし、その表現を保護している(=表現を無断で真似してはいけない)のであって、その背後にある考え方や根拠となっているデータまでもが保護されているわけではありません。よって、論文などで述べられている考え方を実行・実施したり、データを利用したりしてはならないというものではありません。
複数の研究者による共同研究の結果、一つの理論を見出したような場合、その複数の研究者が共同してその理論に関する1篇の論文を執筆して発表することもあれば、共同研究に参加した複数の研究者がそれぞれの表現で別々の論文により同じ学説について論述するということも理論的にはあり得ます。学説そのものは著作物とは認められませんので、それぞれの執筆者の個性によって表現が異なっていれば、同様のこと(学説)を別の論文で述べていても著作権の問題は生じないということになります。
また、論文の中に写真、イラストなどが掲載されている場合、「文章の表現」と「写真の表現」「イラストの表現」などはそれぞれ独立して著作物と評価されます。したがって、たとえ物理的には1篇の論文であっても、自分の論文(文章表現)の中に他者が創作した写真やイラストを利用している場合には、著者以外に関係者が存在しるという意識をもつ必要があります。インタビュー調査の回答もそれが創作性のある表現であれば、回答者が創作した著作物と考える必要があります(「3 他人が創作した著作物の利用」の項を参照)。
2 皆さんが創作した著作物に係る著作権
皆さんが研究活動の過程で創作した著作物について、皆さん自身はどのような権利をもつことになるのか考えてみましょう。
2.1 どのような権利をもつか
特許権や実用新案権などの産業財産権とは異なり、著作権は著作物の創作と同時にその著作者に対して発生します(著作権法第17条第2項)。
著作者は著作者人格権と(財産権としての)著作権を取得しますが、ここでは主に(財産権としての)著作権について説明します。
(財産権としての)著作権とは、自分が創作した著作物を他人に無断で利用されない権利を意味し、ここでいう「利用」とは著作権法に規定された以下の権利に係る行為をいいます。
- 複製
- 上演・演奏
- 上映
- 公衆送信・伝達
- 口述
- 展示
- 頒布
- 譲渡
- 貸与
- 翻訳・翻案等
- 二次的著作物の利用
したがって、皆さんが創作した著作物を上記のいずれかの方法により利用したい第三者は、皆さんからその許諾を得なければなりません。逆に言えば、皆さんが創作した著作物を上記のいずれかの方法により利用しようとする者がいた場合に、皆さんはその者が利用することを拒否したり、利用することを許諾したりすることができます。許諾をする契約において、その条件として対価を請求するということも可能です。
著作権の保護とは、著作者の意思によりその利用をコントロールできるようにしていることを意味します。法律が著作物利用を禁じているのではなく、著作者が利用者との関係で契約によって利用を許諾したり禁止したりできるという仕組みになっています。
なお、上記の「複製」以下の行為のあらゆる場面で、常に著作者の許諾を得なければならないとすると教育や福祉などの公益性等の観点から円滑な利用を阻害しかねない場面もあり得ます。そこで、一定の条件を満たした場合には例外的に著作者の許諾を得ずに著作物を利用することができるという規定もあります。それらの規定の条件を満たす利用に対しては、著作者は利用者に対して利用を禁止することができず、許諾に当たって任意の条件を課したりすることはできません。
2.2 権利を主張するためには(権利が守られるようにするためには)
著作権法によって、他人の著作物を利用とする場合には、利用しようとする者がその著作物の著作者の許諾を得なければならないこととされていますので、法的には著作者が権利を主張するために何らかのアクションを起こさなければならないわけではありません。
しかし、利用者が著作者の許諾を得ようとしても著作者が誰か、著作者はどこにいるかが分からなければ許諾契約のための交渉もできませんので、論文等の発表の際に「千葉大学○○学部所属の〇〇」という表示をしておくことにより、利用者側の手続きを促すことができます。個人情報の表示は慎重にしたいという考え方はありますが、学術研究の成果については、誰がいつそれを発表したかということが重要な要素になるという特性がありますので、最低限、所属機関と氏名を表記することは通常の手順と考えてよいでしょう。
研究成果を出版物として刊行するような場合、出版契約は前述の利用許諾契約とほぼ同じ意味です。法的には出版社は著作物の利用者に当たりますので、著作者が出版社に複製を許諾するという関係になり、その許諾の対価(いわゆる原稿料や印税)は当事者間の契約によって定められることになります。
出版社から慣例や相場について説明があるでしょうから、それに従うことも問題はありませんが、法律で詳細が定められている(こうしなければならないと決まっている)ものではありません。著作権者と利用者との間で、その都度契約により定められるもの(私契約上の条件)であることを知っておくとよいでしょう。
また一方、学術界では研究成果を関係者が共有しやすくするオープンアクセスの考え方も進んでいます。学術研究の場合、小説、音楽、映画などの商業的コンテンツとは異なり、研究成果である論文等を研究者間でできるだけ自由に利用し合えることが望ましいという考え方から、著作権は著作者が保持しつつも、いちいちその論文等を利用する都度、著作者との間で利用許諾の契約や交渉の手間が省けるよう、オープンアクセス環境や制度の整備が進められています。
この場合、「無断で利用するのをやめてほしい」というよりも「この研究成果を共有してほしい(知ってほしい)」という発想になりますので、権利を主張するというのではなく、他の多くの研究者に引用してもらうというアプローチになります。どのようなアプローチをとるかは著作者が判断すればよいということです。
オープンアクセスの一つの方法としてクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)があります。
CCライセンスは、著作者が著作物の公開時にあらかじめライセンスの条件を明示しておくことにより、著作物の利用を希望する第三者が、どのような条件であれば(個別の契約を結ばずに)著作物を利用できるかを分かりやすくするものです。
例えば、著作物の二次利用(第三者が著作物の再配布やリミックス作品の公開、実演等を行うこと) にあたって改変を許容するかどうか、利用目的を非営利に限定するかどうかなどの条件をマークで表示し、その組み合わせによって、著作者の意向を示す仕組みになっています。
(参考)
- クリエイティブ・コモンズ・ジャパン「クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは」
- 研究データ利活用協議会「研究データの公開・利用条件指定ガイドライン」
- Creative Commons "License Chooser" (英語のみ)
研究データのうち著作物に該当しないものについては著作権法上の保護を受けることは難しくなります。その代わり、上記のようなライセンス条件をデータに付与したり、研究データ公開時に添付するReadme(リードミー;データについての説明文書)の文中に、データの取り扱いに関する注記を加えたりすることで、データの利用に関する作成者の意向を示すことができます。
研究データとライセンス
CCライセンスは、著作物に対して付与されることを前提に設計されたライセンスですが、研究データについては、それが著作物に該当するかどうかの判断には様々な要素を考慮する必要があり、判断が難しいケースも多数存在します。
研究データ利活用協議会による「研究データの公開・利用条件指定ガイドライン」では、研究データが著作物にあたる場合/あたらない場合のどちらにも利用できる、CCライセンスと互換性を持たせた、研究データの利用条件を提示しています。この利用条件は、研究データ公開時のReadmeなどに記載して利用することができます。Readmeについては、別記事の「データについての説明文書(Readme;リードミー)の公開」を参照してください。
研究データの公開時にライセンス(利用条件)を指定できるデータリポジトリも多数あります。指定できるライセンス(利用条件)の種類はデータリポジトリによって異なるので、個別に確認してください。
ライセンス(利用条件)の付け方については、所属機関の図書館などでも相談することができます。
なお、ライセンス(利用条件)を指定する際には、トラブルを避けるためにも事前に関係当事者間でよく協議しておきましょう。自分がある条件を付したつもりでも、相手方がそのとおりに受け止めていない(同意していない)場合もあるからです。協議した内容を書面で残しておくことも重要です。
3 他人が創作した著作物の利用
皆さんの研究活動の過程で他人の著作物を利用する場面もあると思います。その場合、「2 皆さんが創作した著作物に係る著作権」の項の裏返しを考えればよいことになります。
3.1 利用の許諾
研究活動を行う場合には、それまでに誰も行ったことのない新しい方法で、全くの白紙の状態から研究を行うこともありますが、先行研究をベースにして発展的な研究を行ったり比較研究を行ったりすることも少なくありません。
そのような場合には、皆さんの論文や研究発表資料に先行研究の記述や研究データを利用することもあり得ます。
先行研究の論文の記述を皆さんの論文に再掲することは複製に当たりますので、基本的には著作者(先行研究の研究者)から許諾を得ることになります。ただし、「引用」の規定の要件を満たす場合には、例外的に著作者の許諾を得る必要はありません(後述)。
また、データ等は著作物ではなく著作権法の保護を受けませんので、法的にはその研究データの測定等を行った者から許諾を得る必要はありません。
しかし、学術研究の分野では、先行研究の研究データを利用する場合には、当該先行研究者に対する敬意を表する意味から、その研究データが誰のどのような研究の成果として示されたものかを示すことがマナーになっています。
一次資料としての研究データの出典を明らかにすることにより、皆さんの論文等の内容を検証する読者が改めて当該研究データを自力で探したり、自分で追実験を行ったりといった、手間暇や費用面での研究コストを省くことにもつながるという効果も生じます。研究データの捏造・改ざんを厳しく戒めるとともに、先行研究者へのリスペクトを慣習として定着させることにより、研究活動への信頼が高まることにつながると考えられているのです。
3.2 引用
皆さんが他人の論文等から記述や図版等の著作物を利用する場合には、原則として、当該論文等の著作者から複製などの許諾を得る必要があります。
ただし、その原則に対する例外として、著作権法には「引用」という規定があり(第32条)、研究などの目的に照らして正当な範囲、かつ公正な慣行に合致する方法であれば、原典の著作者の許諾を得ることなく複製などにより引用することができるとされています。引用の具体的な方法・注意点については、「文献を引用する」の記事をご覧ください。
このように著作権法では例外が規定されていますが、学会誌や研究紀要によっては、先行研究から図表などを引用する場合に、論文の投稿時に原典の執筆者の許諾を得るよう定めている例もあります。それに違反した場合、著作権侵害にはならなくても、当該学会のメンバー間(研究者コミュニティ)の約束違反になる可能性があるということです。学会誌等に投稿する場合には、それぞれの投稿規程などを確認しておきましょう。
研究データを生成AIで扱う際の注意点
研究データが著作物に当たるか当たらないかに関わらず、生成AIに研究データを読み込ませることについては、慎重に判断する必要があります。
その研究データが生成AIの学習に使用されると、データ収集の段階で関係者から許諾を得た範囲を超えてそれらのデータが利用されるリスクが高まるなど、データの作成者・提供者・協力者が不利益を被る可能性があるためです。
生成AIでのデータ利用に関しては、目下、社会全体で利用環境や法制度が整備中です。日々状況が変化していますので、変化に留意するようにしましょう。
この記事では、研究データ等と著作権に関わる事項に焦点を当ててポイントを説明しました。説明しきれなかった部分もありますが、関心がある人は文化庁のWebサイトなどを参考にしてください。

