研究成果をオープンアクセスにする

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電球アイコンこのページでわかること

  1. オープンアクセス(OA)についての基礎知識
  2. 自分の書いた論文をOAにする方法
  3. 研究データをOAにする方法

はじめに

ここでは、オープンアクセスとは何か、皆さんの研究成果(論文、研究データなど)をオープンアクセスにする方法について説明します。

目次

Topic01 オープンアクセスとは?

オープンアクセスのメリット

オープンアクセス(OA)とは、研究成果(論文、研究データなど)をWeb上で誰もが無料で閲覧できるようにした状態を指します。論文や研究データがOA化されてWeb上で入手できるようになっていることは、皆さんが研究を進めるにあたって便利なだけでなく、社会的にも大きな意義を持ちます。ここでは、OAの意義とメリットを、論文をOA化する場合を例に3つの視点から見ていきましょう。

1. 自分の研究成果を広く知ってもらえる

論文をオープンアクセスにすると、その論文を多くの人に読んでもらえる可能性が高まります。加えて、自分の研究やその成果が多くの人に読まれることで、論文を評価する指標の1つである論文引用回数にもよい影響を与える可能性があります。

2. 他の人の研究成果が手に入りやすくなる

OA化によって自分の研究成果を広く知ってもらえるということは、逆の視点から見ると、多くの論文がOA化されることで自分の探している論文が手に入りやすくなるということでもあります。例えば、皆さんがある論文を探していて、自分の大学の図書館ではその論文を収録した紙の雑誌が手に入らなかったとします。こうした場合でも、その論文がOA化されていれば、わざわざ論文のコピーを他大学から取り寄せなくてもWeb上で簡単に手に入れることができます。これは研究を進める上で、大きなメリットになります。

3. 新たな研究の可能性が生まれる

論文がOA化されることで、様々な人がその論文を読むことができ、新たな研究の可能性が広がります。国籍も身分も問わず、多くの人が論文を目にすることで、オープンアクセスにしなければ実現不可能だった結びつきが生まれ、想像もつかなかった共同研究が生まれるかもしれません。また、多くの人に論文が読まれるようになれば、他の研究者が独自の視点でその論文を解釈し、新たな研究を生み出す可能性も高まります。

以上のように、論文がOA化されることで、皆さん一人ひとりにとっても社会全体にとっても大きな恩恵があると言えるでしょう。

「オープンアクセス方針」

国単位や大学等の組織単位で、自国・自機関内で生み出された学術成果をどのようにOA化していくかを定めた「オープンアクセス方針」を策定する動きが広まっています。

日本においても、2011年には「第4期科学技術基本計画」が、2013年には科学技術振興機構(JST)により「オープンアクセスに関するJSTの方針」が策定されました。日本国内の大学では、2015年に京都大学が国内の大学として初めてオープンアクセス方針を策定したことを皮切りに、オープンアクセス方針を公開する動きが広がりました。千葉大学では、2016年に「千葉大学オープンアクセス方針」が策定されています。
これらのオープンアクセス方針は、Web上で誰でも閲覧することが可能ですので、自分の所属機関の方針を調べてみるとよいでしょう。

オープンアクセスの種類

一口にオープンアクセスと言っても、どのようにOA化するかにより様々な分類があります。ここでは、OAの主要な方式である、ゴールドOAとグリーンOAの2つについて、その違いを説明します。 それぞれの方式による具体的な論文の公開方法については、次のトピックで説明します。

ゴールドOA

OAモデルを採用している学術雑誌(OAジャーナル)に論文を掲載することでOA化する方式です。OAジャーナルでは、投稿者が論文投稿料(APC; article prosessing chargeの略)を支払った論文が、そのジャーナルのWebサイト上にOAで公開されます。

つまり、ゴールドOA方式で自分の論文をOA化する場合は、OAジャーナルに論文を投稿することがスタート地点になります。その後、査読を通過し、APCの支払いを行えば、その論文は雑誌掲載時点からOAとして扱われます。そのため、もし、研究を進めるにあたって助成を受けており、その助成機関が「論文の即時OA化」を求めている場合は、ゴールドOAを選択することで、その条件を満たすことができます

APCとは、出版にかかる経費であり、これを主に著者が負担することで、論文を無料公開することが可能となります。APCの金額設定はジャーナルによって様々ですが、場合によっては論文1本あたり数十万円の支払いが必要になる場合もあります。

APCを支払うことなく論文をOA化する方法として、次に挙げる「グリーンOA」があります。APCが高額である、投稿先のジャーナルがOAモデルを採用していないなどの事情でゴールドOAでの論文公開が難しい場合には、グリーンOAの利用も検討しましょう。

グリーンOA

リポジトリやWebページを通じて、学術雑誌などに掲載済みの論文をインターネット上に公開する方法です。OA化に際して、APCをはじめとする費用がかからない(無料でできる)というメリットがあります。

また、これから投稿する論文だけでなく、過去に雑誌に掲載された論文を遡ってOA化できます。

ただし、最初に論文が掲載された雑誌との契約によっては、以下のように各種の制約がかかる場合があるため注意が必要です。

ゴールドOAとグリーンOA それぞれのメリット・デメリット

ここまでの説明をまとめると、ゴールドOAとグリーンOAにはそれぞれ以下のようなメリット・デメリットが存在することになります。

ゴールドOA

メリット
  • 論文が雑誌に掲載されると同時にOA化される
  • 助成機関が研究成果の即時OAを求めている場合、その条件を満たすことができる
デメリット
  • OAモデルを採用しているジャーナルを探して投稿する必要がある
  • 論文投稿料(APC)の支払いが必要

グリーンOA

メリット
  • 論文を無料でOA化できる
  • 過去の論文を遡ってOA化できる
デメリット

エンバーゴ期間の設定、公開できる原稿の版など、元々論文が掲載された雑誌との契約により、様々な制約がかかる場合がある

こうしたメリット・デメリットを踏まえた上で、自分の置かれた状況に合わせて、ゴールドOA・グリーンOAを適切に使い分けていくことが重要です。

オープンアクセスの背景事情

オープンアクセスの潮流が広がった背景には、「シリアルズ・クライシス」(serials crisis; “serial” は学術雑誌のこと)と呼ばれる学術雑誌の価格高騰が主にあります。

元々学術雑誌には、代替物が存在しないために価格競争が起きづらいという性質がありました。
例えば食品や日用雑貨などは、いつも買っている商品が値上げしたときに他社のより安い製品に乗り換えることが比較的簡単にできるため、価格競争が起きやすいタイプの商品だと言えます。
一方、学術雑誌に掲載される論文には雑誌ごとの特色があり、一つ一つが内容のオリジナリティを持つため、ある雑誌が値上げしたからといって他の雑誌に乗り換えようという動きはなかなか起きません。このために、最初に述べたように学術雑誌の世界では価格競争が起きにくくなるのです。

このような学術雑誌の特殊性に、一部の出版社が市場を寡占している状況も重なり、1980年代末に北米で学術雑誌の価格高騰が問題となりました。こうした状況の中、インターネットが発達したこと、また電子ジャーナルの誕生により、論文をOA化するための環境が徐々に整っていきました。

Topic02 実際に論文をオープンアクセスにする

Topic01では、オープンアクセスとは何かについての基礎的な知識を説明してきました。このトピックでは、OAジャーナルに投稿する方法と機関リポジトリで論文を公開する方法を具体的に見ていきます。

この節で取り上げる、

については、ポスターにもまとめています。研究室等でお気軽にご利用ください。

ポスターイメージ画像

OAジャーナルへの投稿(ゴールドOA)

OAジャーナルには、大きく分けて次の2種類があります。

フルOAジャーナル

全ての論文を無料公開しており、インターネット上で誰でも読むことができます。

ハイブリッドジャーナル

著者が掲載料を支払った論文のみ無料公開する雑誌です。雑誌そのものは有料購読なので、同じ雑誌の中に誰でも読めるOA論文と、購読者しか読めない論文が混在することになります。

論文の投稿先を決める際は、自分の研究分野にどのような雑誌があるかを調べると思います。投稿を検討中の雑誌がOAに対応しているかどうかは、もちろん各雑誌のWebサイトで調べることができますが、DOAJ (Directory of Open Access Journals)では、フルOAジャーナルの情報をまとめて調べられます(タイトル、分野、出版社名などで検索ができます)。ただしDOAJは、ハイブリッドジャーナルの情報を掲載していないので、ハイブリッドジャーナルについては各雑誌のサイトを見る必要があります。

投稿を避けるべき「ハゲタカジャーナル」とは

OAジャーナルの仕組みを悪用した「ハゲタカジャーナル(Predatory journals)」と呼ばれる悪質な雑誌が近年問題になっています。投稿先の雑誌を選ぶ際は、こうした雑誌を選ばないよう注意が必要です。「ハゲタカジャーナル」は、最初から論文投稿料(APC)を儲けることを目的としているので、十分な査読を行うことなく、投稿された論文を短期間で雑誌に掲載することが特徴の一つです。

ハゲタカジャーナルに研究論文が掲載されると、その論文が研究業績として正当に評価されない可能性や、研究内容の信頼性が損なわれるなど、様々なデメリットがあります。

ハゲタカジャーナルを見極めることは簡単ではありませんが、どのジャーナルに論文を投稿するかは、論文の著者と研究を主導する教員の責任で決めなくてはなりません。大学院生のみなさんは、まずは指導教官の先生に相談し、その判断に従いましょう。

ハゲタカジャーナルかどうかを判断するには

機関リポジトリで論文を公開する(グリーンOA)

自分の論文をWeb上に公開する際に利用されるサービスの1つがリポジトリです。リポジトリにはいくつか種類があり、利用方法もそれぞれ違いがありますが、ここでは、大学や研究機関が設置するリポジトリである「機関リポジトリ」について説明していきます。

2022年現在、日本国内では700件もの機関リポジトリが存在しています。多くの大学や研究機関には機関リポジトリがありますので、Web検索等で一度調べてみるとよいでしょう。国立情報学研究所(NII)では国内の機関リポジトリのリストを公開しています。

自分の所属する大学に機関リポジトリがあれば、皆さんの研究成果をそこから公開できるはずです。詳しい登録手順については、所属大学の図書館など、リポジトリの運営担当部署に問い合わせるといいでしょう。もちろん、基本的な情報はWebサイトでも調べることができます。

次に挙げるのは、機関リポジトリから論文を公開する前にチェックしておきたいポイントです。詳しい点については、機関リポジトリの運営担当者が相談に乗ってくれます。

千葉大学の場合は、まず研究成果をネットで公開するのページをご覧ください。

ポイント1 著作権上の問題はないか

学術雑誌に論文を投稿する際に、その雑誌の出版社や学会から著作権譲渡同意書などの契約書類の提出を求められることがあります。リポジトリから公開したい論文について、こうした契約書類の内容を確認しましょう。また、これから論文を投稿する場合は、投稿前に契約書類や投稿規程などの内容をよくチェックし、不明点は問い合わせるとよいでしょう。 もし、出版社や学会に著作権が譲渡されている場合は、たとえ著者であっても勝手にその論文をリポジトリから公開することはできないので、学会や出版社に許諾を得る必要があります。

とはいえ、全てのケースについて出版社の個別許諾が必要なわけではありません。特に海外の学術出版社は、著者自身による論文の公開(セルフアーカイビング)を認めているケースが多くあります。

以下に示すのは、グリーンOAでの論文公開に対して出版社や各雑誌が課す条件の一例です。

グリーンOAでの論文公開時の条件例

グリーンOAで公開できるバージョン
どの原稿をリポジトリに登録してよいかの図

こうした細かい条件については、各出版社・雑誌のWebサイトで個別に確認できるほか、海外の学術雑誌であればSherpa Romeo、日本国内の学術雑誌であれば学協会著作権ポリシーデータベースを使って確認することもできます。調べてもよく分からない場合は、自分の大学のリポジトリ運営担当に聞いてみましょう。

ポイント2 共著者などの許諾は取れているか

共著論文の場合は、リポジトリへの掲載に先立って共著者全員の許諾を得る必要があります。また、論文の中に著者以外が作成した図版や写真などが含まれている場合には、その図版や写真の製作者にもリポジトリ掲載の許諾を得る必要があります。

リポジトリに論文を掲載する際の著作権処理の考え方などについては、以下のような資料も参考になるでしょう。

「千葉大学学術成果リポジトリCURATOR」

「千葉大学学術成果リポジトリ CURATOR(キュレーター)」は、千葉大学内で生産された電子的な知的生産物(学術論文、学位論文、プレプリント、統計・実験データ、教材、ソフトウェアなどの学術情報)を蓄積、保存し、学内外に公開するためのインターネット上の発信拠点です。
千葉大学に在籍する大学院生・教職員であれば、基本的に誰でもコンテンツの登録が可能です。詳しくは、まず下記のリンクをご覧ください。

Topic03 研究データを公開する

ここでは研究データの公開について説明します。論文の公開と共通する部分もありますが、研究データに特有な事項も多くあります。

現在広まりつつあるオープンサイエンスの流れを受け、国際的に研究データのオープン化が進んでいます。具体的には、研究助成機関から助成の要件として研究データのオープン化を要求される、または論文を学術雑誌に投稿する際に、その論文に紐づく研究データの公開を求められる、といった事例が増えています。こうした状況を踏まえ、ここでは研究データのオープン化について詳しく見ていきましょう。

研究データを公開するメリット

そもそも研究データとは何かについては、データを適切に保存・管理する④(研究データ管理)準備中で説明しています。

研究データを公開することは、皆さん自身にとっても他の人にとってもメリットがあります。

1. 他の人が研究結果を検証できるようになる

研究データが公開されていることで、そのデータに基づく研究結果(論文など)の妥当性を検証できるようになります。それにより、様々な立場の人にメリットが生まれます。

①論文の読み手の立場

論文の基盤になっている研究データを参照できるため、研究結果の検証が容易になります。これを逆の立場から見ると、論文の書き手は自分が研究に利用したデータを明確に示すことで、自分の研究の正当性を積極的にアピールできることになります。

②学術の世界全体

データのオープン化が進み、研究結果を容易に検証できる環境が整った環境は、個々の論文の読み手や書き手にとってのメリットがあるだけでなく、研究の透明性が高まるという点で、学術の世界全体にとっても有益です。研究の透明性の確保は、研究者に対して研究費を助成する機関(例: 日本学術振興会やAMED)からの要請でもあります。

③社会全体

一般市民が容易に研究データにアクセスできるようになることは、研究に対する社会の理解を高めることにもつながります。

2. 新たな研究の可能性が広がる

研究データが公開されると、まったく別の分野の研究者が、公開されたデータを別の観点から分析することができるようになります。それによって、新たな研究成果が生み出されるかもしれません。 他にも、研究の過程で生み出されたデータ(プロセスデータ)に着目した企業等との共同研究が可能になる(産学連携)など、新たなイノベーションにつながる可能性もあります。

実際に研究データを公開する

研究データを公開する際に、公開先として考えられるのは大きく分けて

  1. データリポジトリ
  2. 所属機関のリポジトリ

の2つです。近年では、論文の根拠となるデータがデータリポジトリ(あるいは機関リポジトリ)上で公開されていることが投稿や査読の条件(著者の義務)となっている学術雑誌も増えてきています。今後もこの流れはさらに強くなっていくものと考えられています。

研究データを登録するリポジトリの選択

登録するデータリポジトリを選ぶときには、注意すべき点がいくつかあります。それぞれのポイントについて見てみましょう。

①推奨されているリポジトリはないか

学術雑誌の出版社によっては、データの公開先として推奨するデータリポジトリをリスト化して公開している場合があります。そのような場合は、そのリストを参照した上で、登録するリポジトリを検討する方がよいでしょう。他にも、大学や研究所によっては、研究データの公開先を指定しているケースがあります。

②その分野でよく知られているリポジトリか

出版社や所属機関が特に研究データの公開先を指定していない場合は、どのリポジトリにデータを投稿するか、自分で選ぶ必要が出てきます。その場合は、自分の研究分野でよく知られているリポジトリ(分野別リポジトリ)を選ぶとよいでしょう。

分野別リポジトリの例

など

③信頼性のあるリポジトリか

リポジトリの信頼性の高さも重要なポイントです。CoreTrustSealという団体は、信頼性の高いデータリポジトリに認証を与えており(第三者認証)、認証を受けたデータリポジトリについての情報を公開しています。こうした情報も参考にし、信頼性の高いデータリポジトリを選ぶようにしましょう。

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