粗悪学術誌(ハゲタカジャーナル)について知る
このページでわかること
- 粗悪学術誌(ハゲタカジャーナル)の特徴・その問題点
- ハゲタカジャーナルに投稿してしまった場合のデメリット
- ハゲタカジャーナルを見分けるための情報源
はじめに ~粗悪学術誌(ハゲタカジャーナル)とは~
オープンアクセス雑誌(OA雑誌)の仕組みを悪用した粗悪な学術誌(通称・ハゲタカジャーナル、Predatory journals)の存在が近年問題になっています。皆さんが論文を書き、雑誌に投稿する際には、こうした雑誌を投稿先に選ばないよう注意が必要です。
「ハゲタカジャーナル」の狙いは、皆さんが支払う論文投稿料です。「論文投稿料」とは、OA雑誌に論文を掲載する際に著者が支払う費用で、「APC」(Article Processing Chargeの略)と呼ぶこともあります。
ハゲタカジャーナルは、論文投稿料を儲けることを目的としているために、十分な査読を行うことなく投稿された論文を短期間で雑誌に掲載することを一つの特徴としています。
ハゲタカジャーナルに論文が掲載されるデメリット
ハゲタカジャーナルに研究論文が掲載されると、その論文が研究業績として正当に評価されない可能性や、研究内容の信頼性が損なわれるおそれがあります。
さらには、その論文を投稿した人の研究者としての信頼性を損ない、他のジャーナルへの掲載が難しくなったり、競争的な研究費の獲得が難しくなったりする可能性もあります。ひいては科学に対する社会からの信頼を損なうことにつながるおそれもあります。
ハゲタカジャーナルは、投稿者を集めるために様々な勧誘活動を行っています。実際に、国際学会等で発表した直後に、「あなたの論文に興味があるので、われわれの雑誌に掲載しませんか」というメールが届く…といった勧誘の事例が知られています。こうした勧誘を受けたら、投稿を決める前に慎重に内容を検討する必要があります。
ハゲタカジャーナルかどうかを判断するには
ハゲタカジャーナルを見極めることは簡単ではありませんが、どのジャーナルに論文を投稿するかは、論文の著者と研究を主導する教員の責任で決めなくてはなりません。大学院生のみなさんは、まずは指導教員の先生に相談し、その判断に従いましょう。加えて、以下に挙げるような情報源も活用し、ハゲタカジャーナルの見分け方についての知識も身に着けていきましょう。
Web of Scienceなど、評価の高いデータベースに収録されているかを確認する
Web of Science(WoS)は、世界中の影響力の高い学術雑誌18,000誌以上を厳選して論文情報を採録しているデータベースです。WoSをはじめとする評価の高い論文情報データベースに収録されていることは、雑誌の信頼性を判断する際の基準になります。
ある雑誌がWoSに収録されているかは、WoSの検索画面で雑誌名を検索するか、WoSの収録雑誌リストをダウンロードすることで調べられます。
- WoSの使い方
- WoSの収録雑誌リストのダウンロード
※アカウント作成(無料)が必要です。
健全性チェックリストを参照する
投稿を考えている雑誌が信頼できるかを確認する際にチェックしておきたいポイントをまとめた「健全性チェックリスト」を活用しましょう。
主要な健全性チェックリストとして、学術出版関係団体が作成している「Think.Check.Submit」が挙げられます。
以下は、「Think.Check.Submit」のチェックリストにある大項目(7つ)と、各大項目に関連した具体的なチェック事項の一部で、2022年6月現在のチェックリストを基に作成したものです。
「Think.Check.Submit」で挙げられているチェック項目(7つの大項目+具体的チェック事項の一部)
クリックすると、具体的チェック事項が表示されます。
1. あなたや周りの人は、その雑誌について知っていますか?
- その雑誌に投稿された論文をこれまでに読んだことはありますか?
- その雑誌に掲載された最新の論文を簡単に見つけることができますか?
- 雑誌名について、その雑誌は他の雑誌と同じ名前、あるいは紛らわしい名前を使っていませんか?
- その雑誌について、ISSN(国際的な雑誌の識別コード)の登録情報をISSNポータルで確認できますか?
2. その雑誌の出版社を簡単に特定して、連絡を取ることはできますか?
- その雑誌のWebサイトには、出版社名が明記されていますか?
- 電話やメール、郵便でその出版社に連絡を取ることができますか?
3. その雑誌は、どのような方式の査読を行っているか明確にしていますか?
- Webサイトには、査読プロセスに独立した/外部の査読者が加わるかどうかや、1論文あたりの査読者数が書かれていますか?
- その出版社は、専門知識を有する編集委員による査読や、あなたの領域の研究者による査読を行っていますか?
- その雑誌は、「投稿された論文は必ず受理する」、あるいは「査読は非常に短期間で終わる」と請け合っていませんか?
4. そのジャーナルの論文は、学術的な専門サービスに収録・アーカイブされますか?
- そのジャーナルに掲載された論文は、容易に見つけられる(≒知名度の高い)データベースに収録・アーカイブされますか?
- その出版社は、電子出版された論文の長期アーカイブ・保存を保証していますか?
- その出版社は、永続性のあるデジタル識別子(DOIなど)を使っていますか?
5. 支払うべき費用は明確ですか?
- その雑誌のWebサイトは、それが何のための費用であるか、どのタイミングで請求されるかを説明していますか?
- 出版社は、Webサイト上で自社の財政基盤について説明していますか?
- 費用の支払いに用いる通貨や、その金額について言及がありますか?
- 出版社のWebサイトには、費用の支払い免除制度の利用可否について説明がありますか?
6. 出版社のWebサイトには、著者向けのガイドラインが掲載されていますか?
- 出版社は、著者が論文の著作権を保持することを認めていますか? 著者は機関リポジトリなどで自分の論文を公開することを許可されていますか? また、その際の条件はどうでしょうか。
- 出版社は、著者や編集者、査読者の利益相反(COI)について、明確なポリシーを持っていますか?
- 論文の公開形式(例:HTML、XML、PDF)は分かりますか?
7. その出版社は、ハゲタカジャーナル問題に率先して取り組む学術出版業界の有力な団体(イニシアチブ)に参加していますか?
- その出版社は、Committee on Publication Ethics (COPE)に所属していますか?
- (OAジャーナルの場合)そのジャーナルはDirectory of Open Access Journals (DOAJ)のリストに掲載されていますか?
- (OAジャーナルの場合)そのジャーナルの出版社は、Open Access Scholarly Publishers’ Association (OASPA)に所属していますか?
チェックポイント7で紹介されているDOAJは、信頼できる雑誌をまとめた「ホワイトリスト」のひとつです。他にも各種のホワイトリストがWeb上で公開されているので、必要に応じて参照しましょう。
「Think.Check.Submit」チェックリストの内容は、現在の動向を反映して順次改訂されますので、最新の情報は公式サイトで確認することをおすすめします。 なお、「Think.Check.Submit」のリストには日本語版もありますが、更新が遅れることがあるようなので可能な限り英語版を参照しましょう。
他にも様々な学術団体・研究機関が、ハゲタカジャーナルを判断する際に参考となる情報を公開しています。自分の所属する団体や研究機関が出している情報もチェックしてみましょう。