批判的に読む

公開日

電球アイコンこのページでわかること

  1. 批判的に読むとはどういうことか
  2. 批判的に読むためのポイントはどこか

はじめに

よく知らない分野についての文献を読むときには、「そこに書かれていることは事実であり、信じてよいだろう」と考えがちです。しかし、多くの文献は、文献の内容を理解するでも述べたように、あくまで著者自身の主張やアプローチが展開されているものです。

つまり、文献に書かれている事柄は、今後さらに研究者による検証を必要とする事柄であるとも言えます。したがって、文献を読む際には、書かれていることをよく吟味し、その確からしさを検討しながら読むことが必要です。

特に、自分自身のレポートや論文を書く際、もしくは自身の研究を進める際には、既存の研究について、その確からしさや有効性を検討したり、自分の考えと対比しながら自分自身の立場や研究の意義を明確にしたりすることが求められます。そのためには、「批判的な視点」(批判的思考:クリティカルシンキング)をもちながら文献を読むことが必要になります。

ここでは、文献を批判的に読むとはどういうことか、批判的に読むには何に着目するとよいのかについて説明します。

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目次

批判的に読むとは

積み重なった本

文献を「批判的に」読むとは、文献に書かれていることについて、鵜呑みにしたり、頭から否定したりせず、立ちどまってよく検討しながら読む、ということを指します。「批判的」という言葉は、否定的にとらえる、非難する、といった意味合いで使われることもありますが、ここでは、そのような意味で用いているわけではありません。

大切なのは、文献に書かれていることにたいして、本当にそれで主張が支持できるか、もっといいアプローチはないか、データやその解釈は正しいか、などといったことを検討しながら読むことや、その主張を受けいれたい、あるいは受けいれたくない、という自分自身の考えにとらわれながら読んでしまっていないか気をつけることです。

思いやり原理と協調原理

批判的に読むということを意識していると、ときに些末な事柄に関してまで、不十分さを指摘し、この文献は信用に足りない、と断じるような態度に陥ることがあります。しかしそれでは、建設的なあり方とは言いがたくなってしまいます。

批判的に読む、ということとセットにして意識しておくべきなのが、「思いやり原理(principle of charity)」と呼ばれる考え方です。これは、著者は筋の通った話をしようとしているはずだということを前提に、読み手がその意図をくみ取りながら文献を理解しようとする態度を指します。文献を読んでいるときには、自分の解釈が間違っている可能性もあることを念頭に置きながら、著者が言いたいことは何なのかを意識するようにしましょう。

この「思いやり原理」は、文献を読む側としてもつべき態度に関するものですが、文献を書く側の態度として大切なのが「協調原理(principle of cooperation)」です。これは、読み手を誤解させないように、必要な情報はすべて提供し、議論に関係のないことは書かない、あいまいな書き方はしない、ということを指します。文献を読むときには、書き手がこのような意識をもって書いているはずだと考えてみてください。

文献は、文章を通じて適切に研究内容を伝えられるよう、読み手と書き手が、互いに協力し合うコミュニケーションの場であるとも言えます。

※思いやり原理と強調原理についての詳しい説明は、伊勢田哲治(2005)『哲学思考トレーニング』筑摩書房、48–53頁を参照。

批判的に読むためのポイント

積み重なった本

文献を批判的に読むべきだと知っていても、そもそも、注意深く検討するべきポイントがどこであるかが分からないと、立ちどまって考えるべきところを見逃したり、細かな点が気になって読み進められなくなったりしてしまいがちです。

検討すべきポイントがどこにあるのかということは、その分野の研究内容や研究手法などについてよく知っていくことによって、徐々につかんでいくことではありますが、以下では、気をつけながら読むとよいポイントのうちいくつかを、簡単に取りあげます。

第一に行うべきなのは、その文献の構造と内容を正確に把握することです。文献の内容を理解するを参考にしながら、その研究が、何を示すために、どのような方法で、何を根拠としながら議論を進めているのかを整理しましょう。

そのうえで、次のようなポイントに注意を払ってみてください。

1. 根拠の正しさ、方法の適切さを確かめる

主張の根拠として挙げられている事柄は、本当に「もっともなもの」であるか

根拠自体の正しさや適切さを裏付ける、データや議論は示されているでしょうか。また、「…は自明である」などの表現や、ネガティブ/ポジティブな意味合いを含む語や修飾を用いた文は、その事柄にたいする書き手の評価が暗に含まれています。そうした表現のもつ印象によって納得させられる、ということがないよう、いったん立ち止まって、本当にそう言えるかを検討する必要があります。

提示されたデータは適切か(収集方法や解釈など)

データが挙がっていれば間違いない、というわけではありません。データの収集方法によって偏った結果が出ている場合や、得られたデータのうち著者にとって都合のよい部分だけが強調されている可能性もあります。

根拠を正しく理解し、誤った解釈をしないためにも、データを「読む」ときに分野を問わず注意すべき「チェックポイント」と「特に注意すべき点」について以下で述べます。

データを読むときのチェックポイント

浦上昌則・脇田高文(2008)『心理学・社会科学研究のための調査系論文の読み方』(東京図書、p.107)「Point. 方法の重要性」より作成

データを集めた対象(集団)が適切であるか

研究においては適切な対象(集団)からデータを集めることが重要です。目的に対して適切な対象(集団)から、必要なデータを十分に集めているか、必ず確認しながら読みましょう。

たとえば、浦上昌則・脇田高文(2008)『心理学・社会科学研究のための調査系論文の読み方』(東京図書、p. 53)で指摘されているように、「青年期の心のメカニズムを研究する際に,大学生だけを対象に調査したのでは問題が残り」ます。青年期に、大学進学以外を選択した人は数多くいるためです。

また、そのデータが「欧米圏における青年」を対象として得たものなのか、それとも「日本における青年」を対象として得たものなのかによっても、著者が一般化して語れる範囲は異なってきます。

上記の、浦上昌則・脇田高文(2008)の中では、特に調査論文において「分析手法ごとに注意して読むべきポイント」がわかりやすくまとめられていますので、参考にしてみてください。

データの収集方法(調査方法・調査項目等)は適切か

必要なデータが、どのような状況で、どのような方法(手段)を用いて集められているかは、データの性質に大きな影響を与えます。たとえば心理学や社会学では質問紙調査(いわゆるアンケート)をよく用いますが、これらのデータを読むときには、次のような点に注意する必要があります。

例)その質問紙調査は…

データの収集方法については、研究論文であれば「研究方法」部分に記述されていることが多いので、必ず確認しましょう。それぞれの方法の特徴(どのような性質のデータを集めやすいか)については、各種参考文献が数多く出ています。ここでは質問紙調査などの量的調査を例にしましたが、インタビューや観察などの質的調査の手法についても、最後に参考文献を示してあるので参考にしてください。

データの提示方法と解釈は、妥当(適切)か

データの分析結果は、文章として書かれるほかに、図・表・写真などの形で文献中に示されることもあります。しかし、そこから読み取れる意味や内容が「正確かつ妥当であるか」は、慎重に検討しながら読みましょう

たとえば、本文中で「図1に示した通り××は●●であることが分かる」と書かれていても、実際には、図1からその事実が読み取れない場合(例:グラフはあるが実数値の記載がない、単位が書かれていない、全体数の記述がなく「何に対する10%なのか」が分からないなど)はよくみられます。

また、近年、不適切なデータ処理やグラフの加工・改ざんが原因で、取り下げになった論文も数多くあります(著者自身は「見栄えをよくするため」「読み手に分かりやすく表現するため」と主張していることが多いです)。

「読み手」である皆さん自身が注意して、著者の主張やデータの解釈が、適切な図像・図表を選択したうえで、適切な形式で記述(表現)されているか、常に検証しながら読むように気をつけましょう。

※内容と図表(数値)に食い違いが発見された場合、学術雑誌に掲載されるような研究論文では(誤植や記載ミスの可能性も含め)編集委員会等で速やかに確認・検証したうえで、当該雑誌の「次号以降」に訂正情報が掲載されることがあります。

…そもそも、データの「孫引き」がなされていないか

研究論文や専門書では少ない例ですが、一般書(新書等)ではしばしば、元々のデータではなく、「新聞記事に以前掲載されたデータ」や「他者の論文に掲載されたデータ」を、さらに引用して言及している場合、いわゆる「孫引き」を行っている場合があります。

こうした記述を見かけたときには必ず「元データ」までさかのぼり、特に、上で述べたような注意点や詳細を、必ず確認するようにしましょう。孫引きに際して、著者による転載ミスや再解釈が行われている可能性もあります。

このように、文献を読む際には、根拠として「データが提示されている」というだけで安心せず、こうした点に留意しながら読み進めていく必要があります。

2. その根拠からその主張が導けるか検討する

論理に関する誤りはないか

たとえ根拠自体が適切なものでも、論理が誤っていれば、その議論は妥当とは言えません。そのためには、論理に関するよくある誤りを知っておくことも大切だと言えます。

たとえば、「批判的に読む方法を知らないならば、論文の内容は理解できない」ということが正しいとしたとき、そこからただちに、「批判的に読む方法を知っていれば、論文の内容は理解できる」ことになるとは言えません。文献がどのような論理展開で書かれているかをはっきりさせたうえで、その妥当性を検討することが必要です。

因果関係が本当にあるか

AとBに因果関係があるとされているとき、それが単純な時間的前後関係であったり、AがBの原因なのではなく、BがAの原因なのであったり、第三の要因がAとBの原因なのであって、AとBの間には因果関係はなかったりといった可能性はないでしょうか。

単純化しすぎた整理をしていないか

実際には複雑な状況であるのに、それを「AかBか」といった形で単純化して理解し、ほかの可能性を排除していないでしょうか。示されているのとは別の形の回答がある可能性も考慮してみましょう。

暗黙の前提があるなら、それは適切な前提か

その根拠からその主張を導く際に、実は暗黙の裡に、別の前提に訴えている場合もあります。その前提があまりに当然の事実であるなどの理由で、あえて言及していないこともありますが、実はその前提こそ、検討すべき事柄である可能性もあります。著者が何を前提としているのかに注意を払うことも必要です。

3. 議論全体を検討する

そのアプローチがうまくいかない場面はないか

著者の提案するアプローチや主張は、著者の想定する状況ではうまくいっていても、もしかすると別の場面ではうまくいかないかもしれません。著者自身が考えている状況とは別の状況についても検討したり、別のアプローチの場合と比較したりすることで、著者の提案の有効性を確かめてみてください。

その議論にはどのようなことが含意されているか

上で述べた観点とも重なりますが、著者の議論から、著者が示していること以外に、どのようなことが導かれるかを検討してみることも必要です。もしかすると、その主張やアプローチを正しいものとして受けいれることは、別の、場合によっては望ましくない帰結をもたらすことかもしれません。

以上のポイントは、自分自身がレポートや論文を書く際に気をつけるべきことでもあります。すぐに身につくことではありませんが、こうした観点に気を配る癖をつけておくと、自分で研究を行う際の助けになるはずです。

動画

上で述べたいくつかのポイントについて、具体例を挙げながら解説しています。

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文献案内

文章を批判的に読む方法について解説した文献には次のようなものがあります。

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