千葉大学附属図書館アダム・スミス コレクションでは、アダム・スミスの著書を中心にイギリス経済学関係の貴重図書の情報をまとめています。
詳しくは、千葉大学法経学部名誉教授野澤敏治先生の解説動画をご覧ください。
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千葉大学法経学部名誉教授 野沢敏治
諸版に注目することの意義はどこにあるかということですが、著者は初版に対する批判を受けて、また社会的な変化を踏まえて、初版に修正や追加をすることがよくあります。スミスの『国富論』について言うと、それは一つではなく、第二版以降の違ったものがあるということです。第三版などはスミス自身によって決定版とされています。こうなると、著者の真意を知るにはどうしても初版以降の諸版を読むことが必要となるのです。さらに著者の没後、どこの誰によって編集され、幾らで何版まで出されたか、あるいは何語に翻訳されたかを調べていくと、その本の受容のされ方がわかっていきます。以上のことはスミスの本だけでなく、どの学者のものについてもいえることなのです。マルクスは読者に『資本論』はドイツ語版だけでなく、フランス語版をもその独自な科学的価値のゆえに参照を求めていました。
現在、古典は原本でなくても、フィルムやコピー等で読むことができます。しかし、まだ本に優る見やすさを提供してくれる機械は発明されていません。また、コピーでは原本のような緊張感を読者に与えることはありません。それに原本は思いがけないこと を発見させてくれることがあります。キャンセルページといって、本の印刷段階になってある頁が切り取られ、別の訂正された頁に差し替えられることがあります。その頁を調べることで、実は理論的な変更がなされていることがわかり、研究上の重要な問題提起につながることもあるのです。こういうことは原本でないとわからないことで、文献学的研究もばかにならないのです。展示されているスミス・コレクションも注意して見ると、いくつか興味深いことを教えてくれます。
戦前の小樽高商の手塚寿郎はヨーロッパ留学中に食費の節約までして、フランス近代思想の本を熱心に集めました。その手塚文庫には19世紀前半の劇場のチケットまで紛れ込んでいて、研究者に言わせると、本国の国立図書館に行くよりも小樽に行った方が人をわくわくさせるのです。手塚のような先人のおかげで、我が国の研究者は欧米の本を読むことができるようになり、しかもさらに輸入紹介するだけでなく、それらを日本の文脈のなかで自分なりに消化することで輸出科学としてきました。このスミス・コレクションを読んで自分のものにするのも、われわれ読者なのです。
アダム・スミスの生涯について、学問的活動に関係するものを中心に編集した年譜です。
千葉大学学術成果リポジトリCURATORにて、千葉大学附属図書館資料展示企画委員会編『アダム・スミスコレクション解題目録』(1997.3発行)を公開しています。
『アダム・スミスコレクション解題目録』発行後、千葉大学附属図書館「図書館の本」や千葉大学附属図書館報「InfoPort」に寄稿された「アダム・スミスコレクションへの追加」シリーズも、千葉大学学術成果リポジトリCURATORで公開しています。
調査・研究・学習を目的とする場合に限り、来館してアダム・スミス コレクション資料を閲覧することができます。
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