責任ある研究をする

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はじめに

研究者として研究を続けていくには、研究者に求められる倫理的な責任を十分に理解し、その責任を果たすことが必要です。なかでも、研究活動における不正行為については、どのような行為がなぜ不正であるのかを理解しておくことが重要です。たとえ不正をおかすつもりはないとしても、知識が足りないことによって、研究不正を疑われる状況を作りだしてしまうこともありうるからです。研究を適切に行っていくために、どのようなことを学んでおくべきなのでしょうか。


みなさんは「研究倫理」や「研究公正(Research Integrity)」という言葉になじみがあるでしょうか。学部生であれ、大学院生であれ、研究に携わる者であれば、これらの言葉が何を意味するのかを十分に理解している必要があります。

日本学術会議の声明では、公正な研究活動について、以下のように説明されています。

科学者は、自らの研究の立案・計画・申請・実施・報告などの過程において、本規範の趣旨に沿って誠実に行動する。科学者は研究成果を論文などで公表することで、各自が果たした役割に応じて功績の認知を得るとともに責任を負わなければならない。研究・調査データの記録保存や厳正な取扱いを徹底し、ねつ造、改ざん、盗用などの不正行為を為さず、また加担しない。(日本学術会議 声明「科学者の行動規範――改訂版――」http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-s168-1.pdf、2020年3月31日閲覧)

ほかにも、日本学術振興会「科学の健全な発展のために」編集委員会編(2015)『科学の健全な発展のために――誠実な科学者の心得――』(丸善出版)には、公正な研究についての説明(pp. 5–6、テキスト版p. 12)や、研究不正の定義(pp. 46–48、テキスト版pp. 49–50)が記載されています。
テキスト版「科学の健全な発展のために――誠実な科学者の心得――」

研究を遂行していくなかで、研究不正の問題は、避けては通れないものです。実験を行うときや論文を執筆するときなど、さまざまな場面で、これで本当に大丈夫だろうかと判断に迷うようなことが起こりえます。あるいは、とりたてて不安を覚えたわけではないことが、実は不正にあたる行為であった、ということもありえます。

故意であるかどうかにかかわらず、無知や誤解や過失などによって、不適切な行為の当事者になってしまうことは、どの分野の研究者にも、十分にありうることです。こうした事態を防ぎ、研究者として責任ある研究活動を行うためには、適切な研究活動についての知識を新たにしていくしかありません。

研究推進・科学技術振興に関わるいくつかの機関では、研究不正の防止に向けて、研究公正に関する情報やeラーニングコースを提供しています。

日本学術振興会:eL CoRE

人文・社会科学系および自然科学系の研究者や大学院生が受講できる無料のeラーニングコースとして、日本学術振興会が提供する研究倫理eラーニングコースがあります。
「eL CoRE」(e-Learning Course on Research Ethics)

このコースは、個人で登録できるもので、研究者向けコースと大学院生向けコースが用意されています。研究者に求められる責任や、研究の過程で問題になるデータの扱い、盗用やオーサーシップの問題などについて、院生が遭遇しやすい事例で考えながら学ぶことができます。

科学技術振興機構:THE LAB、倫理の空白

科学技術振興機構(JST)が運営する研究公正ポータルでは、研究公正に関するさまざまな情報や教材を紹介・提供しています。
ここでは教材の一部を紹介します。


所属機関や研究プロジェクト等によって受講が義務づけられるeラーニング

所属機関や、研究資金の助成機関、あるいは研究プロジェクト等によって、研究公正に関するeラーニングの受講が義務づけられている場合があります。たとえば、日本学術振興会特別研究員に採用された者は、前述のeL CoREの履修や、APRIN e ラーニングプログラム (eAPRIN)の受講、または前述の『科学の健全な発展のために――誠実な科学者の心得――』の通読など、指定された形で、研究倫理教育を受ける必要があります。自分の属する機関やプロジェクトにそうした規定がないか、確認してみてください。

今後の研究活動のためには、研究者の果たすべき責任について、自身の知識や考え方を最新のものにしておく必要があります。それには、まず、指導教員や研究室のメンバーと、研究上生じうる問題について話し合ったり、適切な研究方法について確認したりする機会をもつことが大切です。それに加えて、ここで紹介したeラーニングコースやポータルサイトなどを利用して、自分で情報を得ることも、適切な研究活動を支える助けになるはずです。

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